「辰巳」

【男のはかなくとも美しい美学を見よ】

監督・脚本:小路紘史
出演:遠藤雄弥、森田想

【映画評論】

辰巳役の遠藤雄弥がいい。口数が少なく裏稼業に手を出しているから、表の顔から一瞬で凶暴な目付きになったり乱暴な言葉が発せられる。さすがヤクザ者という姿がカッコイイ。

辰巳は組の仲間の所に行く。そこには元カノと妹の葵がいた。ただ、その妹、葵がぶっ飛び娘だ。口は悪いし気が強く生意気ですごい負けず嫌い。辰巳と葵の初対面では辰巳は葵をいかれ娘扱いする。ただ、この葵の姉が夫の組の抗争に巻き込まれて辰巳と葵の目の前で男二人に殺される。葵も命からがら辰巳に助けてもらい、葵は男二人へ姉の復讐を誓うのだ。

辰巳は葵をかくまうが困ってしまう。葵も可哀想だが組を裏切ることもできない。組からも葵をかくまっていないか疑われ、ついに一緒にいることを組に告げる。組からの高まるプレッシャーに辰巳の組への駆け引きがヒリヒリするような緊迫感をうむ。その過程での辰巳と葵の抑制をきかせた演技と演出により、せまりくるアクションシーンにハラハラし、いざアクションとなるとバイオレンス性がより増幅された演出になっていた。

辰巳の男の美学が際立っているのは、組を裏切っても不条理を許さず弱い者を守る、その一心だけだ。辰巳から何かを仕掛けたのではなく巻き込まれていくストーリー展開とヤクザ者同士の抗争や戦いではなく、葵を守る一心の辰巳、遠藤雄弥は「レオン」のジャン・レノをまさに彷彿させた。

小路紘史監督の演出と脚本の見事さは、バイオレンス映画の領域を超えたことだ。その根底には、辰巳と葵を筆頭に俳優達全員が、キレるギリギリまで抑制をきかせた演出と演技によって、アクションシーンが、単なる暴力だけではなく、登場人物達の感情があふれ出てくる心理描写まで踏み込んだことが秀逸なのだ。なかでも主人公二人、遠藤雄弥と森田想の演技は絶品だった。まさに脚本、演出、演技が三位一体となったコラボレーションを響かせていた。

小路監督の描出した世界観は、男の美学に到達した。やくざ者辰巳がカッコイイのではない。何が真っ当なのかを体現した男、辰巳の美学がカッコイイのだ。

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