「精神と肉体、限界突破」
監督:三木康一朗
脚本:安達奈緒子
出演:奈緒、猪狩蒼弥、三吉彩花、風間俊介
2024年 日本映画
上映時間:116分
美鈴(奈緒)は高校の教師。生徒の新妻が問題をおこし美鈴に精神と肉体の矛盾の話をするとおとなしめな美鈴が男を敵対視する態度で強い言葉を新妻に放つ。冒頭のシーンにおいて美鈴がなにか問題をはらんでいると見る者に感じさせる。
六年前にさかのぼる。美鈴は親友の美奈子の引越しの手伝いをしていたとき美奈子の彼氏、早藤に犯されてしまう。美鈴は男の力に屈してしまった。早藤への嫌悪感が男を敵対視する美鈴の心の底にあることが明らかにされる。しかし美鈴が最も許せないのは自分自身だ。
美鈴は新妻を精神では嫌悪しているが肉体、情欲は求めてしまう。人間の理性だけでは対処できない矛盾性が浮かびあがる。美鈴は嫌悪する早藤と六年にわたり関係を続ける。そして自分自身がコントロールできないことから自分が嫌いということを隠すために男を敵対視する。かなりきわどい性描写があるが、矛盾の狭間に揺れる奈緒の演技は素晴らしい。
美鈴の精神を平穏にしてくれたのは新妻だった。新妻の精神は先生を守りたいの一心だ。この新妻の真心が美鈴の精神に平衡を取り戻していく。この先生と生徒という関係、年の差があるのに二人のふわっと優しい空気感が心地よく演出されている。
新妻との関係から美鈴は変わる。今まで言いなりであった早藤に反抗するのだ。この反抗は自分との闘いであり早藤との闘いでもあった。それは美鈴が自分が決めていた限界を突破することだった。新妻も先生を苦しめている早藤に会いに行く。彼なりに自分がまだ子供という限界を突破した行動だ。
限界突破した美鈴、奈緒の演技は壮絶だった。何も恐れない、怖がらない、自分の主張をはっきりと早藤に言い放つ。精神が穏やかになる愛こそが自分が決めた限界を解き放つのだ。この美鈴の限界突破を発端に美奈子も早藤も激変する。身籠の美奈子の激烈な早藤への態度と言葉、それを聞き茫然とする早藤の姿、そして彼が弱々しく発する言葉が二人の限界突破であった。現状から跳躍する安達奈緒子の緻密さと力のこもった脚本、役者の本質をさらけだし限界を突き抜けさせた三木康一朗の演出は秀逸であった。