「水深ゼロメートルから」

「山下敦弘監督は何でも映画にしてしまう」
監督:山下敦弘
脚本:中田夢花
原作:中田夢花、村端賢志、徳島市立高等学校演劇部の舞台
出演:濱尾咲綺、仲吉玲亜、清田みくり、花岡すみれ、さとうほなみ
2024年 日本映画
上映時間:87分

冒頭水のないプールサイドに一人の女子高生が現れる姿をロングショットでとらえる。夏休みの体育の補習授業でもう一人の生徒と水泳部の生徒が加わりプールの掃除を先生から指示される。真面目に掃除をする子とやる気のまったくない子、水のないプールで泳ぐ真似をする子。その様子がただ淡々と描出されるだけだ。

この映画は、高校生の演劇を映画化したものだ。物語は出来上がっている。それでも山下監督はこのモチーフを使って映画にした。リメイクあり、原作コミックあり、山下監督は、素材は何であれ映画にしてしまう。。

この映画でもロングショットやカメラの細やかな切り返し、グランドの横を二人で歩きながら話をする運動の挿入、バストショット、クローズアップという映画手法をふんだんに活用している。舞台では見る者と演者の距離感はたえず一定である。しかし映画であれば、演者と見る者の見え方がまったく変わる。

見る者はカメラの動き、スピードによって映画を見ている。舞台を等距離でそのまま映像にはしていない。まさに映画になっているのだ。カメラの動きにあわせて女子高生らしい恋の悩みや、なぜ化粧にこだわり可愛くなりたいのか、水泳に対する強い思い、それゆえ先輩を傷つける残酷さなどが、カメラの指示に従うことによって登場人物の心の揺らぎが明確に伝わってくるのだ。

山下監督は、「カラオケ行こ!」でもコミックでは表現できない歌の下手さや中学生とヤクザが横並び座ることに拒否する態度や親密さを音とカメラで表現し映画に仕上げた。中学生とヤクザが親しくなるが、それ以上のテーマ性を持たない。

この映画でも補習で呼び出された二人と水泳部の子、水泳部の先輩のある一日の姿を描出しただけだ。彼女達が成長するという前向きなテーマはない。体育の先生と生徒がバトルになり、先生がしどろもどろになる。生徒の言い分は正論だ。それを受けた先生が校舎のすみでタバコをくゆらしている姿に、変わってしまった自分を見つめなおすシーンがいい。掃除が終わったころ雨が降り出す。今日一日を洗い流すように。山下監督の映画には雨がよく似合う。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です